たしか中学生のころだったと思う。
うちは一応呪い~お祓いなど幅広く受けている職業をしていて、
その関係でいわくつきの品物が回ってくることも多かったんです。

ある日、見たら仏壇の前に桐箱に入った日本人形が置いてあるのですよ。
「コレ何?」と父に聞くと、どうやら人からの預かり物で、
結構古い市松人形だとのことでした。
しかしその日から、家の中で奇妙なことが起こるようになったのです。
家に父の弟子が泊まって帰ることがよくあるんですが、
その弟子さんが朝になると蒼白で口をそろえて
「足音がした」「人形が足元を歩いているのを見た」って言うんです。
しまいに誰も泊まらなくなる家。
そしていつまでたっても家に置かれている市松人形。
「あのさ…この人形…預かり物…だったよね」
父に尋ねると、ぽつり
「うん。…元の持ち主から連絡がない」
ちょwwww
イヤこっちから連絡しようとすれば出来るんですが、
どうもウチに押し付け…失礼、任せてくれたみたいでしてね。
いよいよこれはマズイものをおしつk…預けられてしまったなあと頭を抱えました。

実はこの頃、もう私自身にあまり霊を視る能力というのはなくて、
ただ「感じる」ことは出来るぐらいのものだったのですが、
私も多分一度、夜中にその市松人形にお会いしたのです。
いきなり妙な感覚で目が覚めて、なんていうか…
部屋のなかには何も居ないはずなんだけど…
すごく「怖い」感覚だけが肌に伝わってくる。
部屋中から恐怖を感じるんです。
その感覚だけで、部屋が真っ赤に見えるぐらいに。
今思えばあれが「殺気」ってやつだったのかなぁ。
動くとマズいかと思って硬直してたんですが。
それよりぞっとするのは、たぶんその時足元見たら、居たんだろうなぁ…ってこと。
人形がね。

そしてついに霊能力者であるはずの父までも被害に遭いました。
いわく、眠っていたらいきなり顔の上から布団を被せられ、
そのまま物凄く強い力で押さえつけられたそうです。
このままでは窒息する!と思った父は、しかしそんなこともあろうと
布団の外に出していた右手で、その「押さえている何者か」の腕を掴んだのです。
その瞬間、ぎやああああっという凄い悲鳴を上げて、
顔の上の気配は消えたそうですが…。
「もうちょっとがんばれば消滅させられたんだけどな」
…残念そうに言わないでください父さん。そりゃ霊のほうもびっくりして逃げるよ。

どうやらこの人形、人形「自体」が出歩いているわけではなくて、
人形にとりついている霊が人形の姿で出歩いているらしいです。
さすがにここまで大事になっては、本格的に祓わなければ
次に襲われるのは私か母かもしれない。
というわけで、完璧に除霊することになりました。

なぜか私もそれに同席することとなり、訪れたその日の夜。
踏み入った仏間には、すでに人形が桐箱から出されて鎮座していました。
この人形、相当古いもののようですが、まだ色を残している着物を着ていて、
間接は球体でちゃんと動かして遊べるものでした。
表情は日本人形によくある少し笑った感じで、髪の毛は黒々と肩あたりまであります。
軽く汚れた肌の中で、細められた両目の奥の真っ黒な眼球が少し不気味です。
ちなみに髪の毛は一ミリたりとも伸びていませんでしたよ、念のためw

やがて父が数珠を手に経を詠み始めると、
障子にカタカタ…カタ…と震えが走りました。
最初は地震?と思ったのですが、それがみるみるうちにガタガタガタッ!
という大きなものになりました。
地面はまったく揺れていません。ただ、目に見えない衝撃波のようなものが
部屋中の空気を震わせているようでした。
普通の状態だったら私とて間違いなく「何だこれ!」と叫んでいたと思うのですが、
その時の私は妙に穏やかな気持ちでそれを見上げていました。
父が唱える経の音と、部屋中に響く大きな音を、
じっと一つも漏らさず見つめていました。

経を唱え終わる頃、いつの間にかその音も止み、
部屋は再び夜の静けさを取り戻していました。
近所から苦情も来なかったところを見ると
この部屋以外には音が一切していなかった模様。
「ほら、見てごらん」父はそう言って人形を持ち上げます。
「さっきより、ずっと穏やかな表情になったよ」
…すみません。正直、日本人形が不気味すぎて、その違いがわかりません(汗)
ただ、人形は人形として相変わらず薄汚れてるし、
微妙に笑ってる表情とかもちょっと怖いままだったんだけど、
なんていうか…「ただの人形になった」感じはしました。

後日談ですが、まだ人形に霊が宿っているうちに、
父が一度その人形の霊視を試みたそうです。
この市松人形はもともと雛人形でもあり、
小さな子供、とくに裕福な子供が遊ぶのに使われていたようです。
ある日、その裕福な家に奉公に来た女の子が、裕福な子供に
「人形盗んだだろう!」と言われたのでした。
裕福な子としてはただのいじめだったのでしょうが、
そんなことを言われてはその家で働き続けることは出来ません。
泣く泣く元の家へ帰るのですが、家は家でもう食うや食わずの
ギリギリの生活ですし、だからこそ子供を奉公に出したわけで。
悩んだ末、なんと親はその女の子を、夜中に…頭から布団を被せて
窒息死させてしまったのです。
そう。まさに、あの夜、私の父が霊にされたことでした。

この人形はまだうちの家にあります。
お雛様の季節にはひな壇と一緒に出して、一緒に祝います。
いまさらかもしれませんが、この霊が成仏したあと幸せであることを祈ります。

ちなみに持ち主はやっぱり取りに来ていません(笑) 


【引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?統合スレ】