みなさんは「学校の七不思議」なるものを覚えているだろうか?
学校にまつわる怪談が七つあって、全部知ってしまうと死ぬとか、
そんな類のものである。
ドアがあった場所などただの壁である。
ただ、後から塞いだドアの跡はよく見ればはっきりとわかったし、
実際他の児童たちの間でもその場所は有名だった。
そんな存在しない部屋の正体を掴もうなどと少々無茶な提案をしてきたのは、
当時の俺の友達で小学生の分際でオカルト好きという変人のHという女の子だった。
Hいわく、「何かあった時に男手があった方が心強いから」ということらしい。
別に俺そんなに頑強な少年じゃなかったけどね。
俺自身は特にその話自体に興味はなかったのだが、
なんとなく二つ返事でOKしてしまった。
こうして謎の部屋の正体を掴むべく俺とHは動き出したわけである。

壁の向こうからノックのような音が聞こえてくるのが3時35分だったため、
俺達は5限で授業が終わる日を選んで実行することにした。
ノックが聞こえるかどうかを確かめ、聞こえたらそれに答えてみよう。
というのがHの意見だった。
「おいおいそれってマズいんじゃなかったっけ?」と俺。
「そのためにアンタを呼んだんでしょ」とH。
そして、あっという間に時間は過ぎ、3時35分になった。

と、同時に俺とHが「お」と小さく呟く。

・・・ドン・・・・ドンドン・・ドン・・・・・

微かに壁の向こうから音がする。ノックと形容するには激しすぎる、
むしろ中に閉じ込められた少年が死に物狂いで助けを求めるかのような…
音に聞き入ったまま動けずにいると、Hがいつの間にか壁の正面に立っていた。
右手を軽く上げる。
「おい・・・」という俺の制止は無視され、Hは二、三度軽く壁をノックする。
途端に、ピタッと音が止んだ。
放課後の廊下に静寂が戻る。奇妙に感じるほどの静寂が。
と、次の瞬間、壁が真っ黒になっていた。
否、コンクリートの壁が、そしてその奥にあるはずのドアが、消失していた。
真っ黒に見えたのは中にある、いやあったかもしれない部屋が完全な闇だからだ。
外からの光すら飲み込んでしまう闇。
何年も、いや何十年もの間、決して光が当たることのなかった部屋と、
そこに閉じ込められていた「何か」の慟哭。
闇の奥底から響いてくる壮絶な悲鳴とHの悲鳴が聞こえてきたのは、
ほぼ同じタイミングだった。

Hは部屋に引きずり込まれそうになっていた。
闇の淵からHの脚を掴んでいるのは腐乱した手。成人男性の手だ。
Hも俺も、そして闇の中の何かも悲鳴を上げ絶叫していた。
しかし他の大人たちが駆けつけてくる気配はない。
あるいは先刻の静寂の時点でおかしいと気づくべきだったのかもしれない。
しかしそんなことを考えている余裕はなかった。
何しろ目の前でHが引きずり込まれようとしているのだ。
形容しがたい恐怖が俺を襲った。
とっさにHの腕を掴み、逆に引っ張った。脚と腕の引っ張り合い。
当然Hは痛そうで、そして怖そうな顔をしていた。
やがて男の腕はふくらはぎからくるぶしへと滑り、
足首を掴んだかと思うと今度は靴を掴み、
最後には靴が脚から抜けて闇の中へと吸い込まれていった。
慟哭が破壊的なまでに強くなった気がした。

そして気がつくと、俺とHはコンクリートで塞がれた、
かつて部屋があったかもしれない場所の前で、二人して泣いていた。
時刻は3時36分。どうやら二人とも運良く引きずり込まれずに済んだようだった。
Hの靴は片方なくなっていたが。
二人して泣きまくっているのに気がついた用務員のオバサンが俺達に近づいてきた。
そして俺達から数メートルほどのところでふと立ち止まって顔をしかめたかと思うと、
今度は見る見るうちに顔が青ざめていく。
そして大急ぎで職員室へと駆けていき、
やがて俺達の周りは人でいっぱいになった。
その後のことは俺もよく覚えていない。
大泣きしていたし、周りの人たちはなにやら騒ぎまくってるし。
ただすぐに温かい飲み物が差し出されて、それ飲んで安心したのは覚えてる。
あと救急車で病院に運ばれたことも。

俺とHはしばらくの間入院することになった。
外傷は二人ともなかったが、精神のケアのためだ。
入院中、担任の先生と両親、それから年配の男の人が面会に来た。
担任は男を「昔小学校にいた先生だよ」と紹介した。
両親はすでに話を聞かされているらしく、
男が話を始めるとそそくさと部屋から出ていった。
彼は俺とHに俺達の見たものはおそらく現実だということ。
しかしきっと夢や幻と考えた方がこの先悩んだり
苦しんだりしなくて済むだろうから、そう考えなさいということ。
もう面白半分であの部屋で起こったことを語ってはいけないということ。
そしてあの部屋で一体何が起こったのか。その全てを話してくれた。
俺達は神妙になってその話を聞き、そして彼の言葉通り、
その後学校に戻っても二度と暗室に近寄ることもしなければ、
話すこともしなかった。

これでこの話はおしまい。長文でしかも大したオチもなくマジでスマソ。
ちなみに俺は中学からは東京の方に引っ越して(たぶん親も怖かったんだろうなw)
そのまま高校も大学も東京の学校に行ったので
その後あの「暗室」がどうなったかは知らない。
ただ、最近その小学校の名前でググッてみたら、
校舎の様相が俺のいた頃と完全に変わっていたので、
たぶん改装したか、あるいは校舎を移したかなんかしたんだと思う。
ただ、いまだに真っ暗闇な部屋は怖い。さすがに当時ほどではなくなったけどね。
あとHいわく、「アレはとにかく寒くて寒くて仕方がなかった」んだそうな
あ、ちなみに七不思議で語られてる部屋の噂に関する真偽のほどは俺も知らん。
ただその部屋で児童が死んだってのは確かみたい。
閉じ込められた少年の恨みがT先生も巻き込んだのか、
それとも元から何かよくない部屋だったのか。
あるいはその両方かもしれんね。
ではでは、ここまで読んでくれた人乙 


【引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?part177】