7年前住んでいたアパートに、1匹の黒猫が住んでいた。

猫好きな俺だが、発情期でもないのに夕方から夜にかけて
すごく不吉な声で鳴くので、見るたびに避けるようにしていた。

蒸し暑いある6月の夜、俺は嫌な夢を見ていた。
昔の無声映画のように、黒いスクリーンに文字が映し出される夢だ。

「なぜ私を避けるのですか?」
「夜明け前、会いに行ってもいいですか?」

白い文字が浮かび上がった後、シーンとした沈黙が流れた。

「4時44分に伺います」

すると遠くからかすかに、あの不吉な鳴き声が聞こえてきた。
「ニャ~~~~…」「ニャ~~~~…」
しばしの沈黙の後、布団で寝ている俺のすぐ耳元で
「ニャ~~~~」という鳴き声がした。
「わっ!」俺は飛び起きた。
開け放たれた窓、まだ暗いベランダに干してある洗濯物。
何もいない。いつもの見慣れた風景だ。
ここは2階だ。猫が登って来られるような建物じゃない。
「嫌な夢見ちゃったな」
俺は自分の体が汗びっしょりなのに気が付いた。

着替えようと思った俺は、見てしまった。
4時44分を指している時計を。

その3日後、アパートの前を通るバイパスで
何台もの車に潰された黒猫の死体があった。
もしかしたら、あの猫はみんなに嫌われて寂しかったのかな?


【引用元:不可解な体験、謎な話~enigma~ part2】