犬の散歩の時に体験した話。
俺としては滅茶苦茶怖かったんで、ちょっと聞いてくれないか。

俺の地元は東北の凄まじいド田舎で、海や山が近い。
この季節だとまだ海は荒れてるし、それ以前に犬が波を怖がるから
散歩コースは大抵、山道を歩くような感じになる。
その山道っていうのが、一応はコンクリートで舗装されてるけど
それも申し訳程度というか、舗装はされてるけどゴツゴツで
お世辞にも道路状況が良いとは言えない。
だからこないだ、いつもとは違う道を歩いてみよう、と思ったんだ。
その近くに、新しくできた大きな橋があったんだよ。
道路幅が広くて、歩道もちゃんと整備されてる。
車で通る以外は、あまり縁が無かったんだけど、
気が向いたついでにそこに行ってみよう、と思ったんだ。

田舎だから空気もいいし、車もあまり通らず、静かでのどかな場所なんだ。
橋の下は谷みたいになってて、眺めも良い。
煙草吸いながら、携帯のカメラで色々撮ってみたり
ちょっとしたハイキングみたいなテンションになってた。
今度からはこっちの道を散歩コースにするのもアリだなー、なんて思いながら
そろそろ家に帰ろうと思ったんだよ。

そしたら、遠くの山の方に、何かが見えた。

最初は木の間から空が見えてるだけかと思った。
でも、違うんだ。
何か白いものが、動いてる。
熊が冬眠から覚めるにはまだ早いし、猿にしたって色が違う。
本当に、漂白したみたいに真っ白だった。
不審に思いながらも、じっと凝視してたんだ。

いきなり、そいつが木の間から、出てきた。

ニュルン、て効果音が付きそうな程、滑らかに。
遠くだったし、視力もそんなに良い方じゃないから、見間違いかとも思った。
でも確かにそこにいるんだよ。
見た目は、トカゲを最高に気味悪くした感じって言ったらいいんだろうか。
もののけ姫のタタリ神って、いるだろ。
アレの表面をツルッとさせて、尻尾を付けたのが一番近いかな。
大きさは、結構でかいと思う。
少なくとも、人間よりは大きい。

一瞬、目が合ったと思った。

頭(と思われる部分)が、こっちを向いたんだ。
それまで何とも無かったのに、いきなり全身に鳥肌が立った。
一緒にいた犬なんか凄い勢いで吠え始めた。
そいつ、しばらくこっちを向いていたと思ったら、
反転して、山の奥に去って行った。
山の上を走るみたいにして。
でも木はそんなに揺れてなかったと思う。
デカイものが移動するような音もしなかった。

呆気に取られて、しばらくはそこに突っ立ってたんだけど
だんだん怖くなってきて、走って逃げた。

久しぶりに全力疾走した。
本当に全力で走った。
犬の綱を握ってる手がガタガタ震えてさ、滅茶苦茶怖かったんだ。
ともかく、そこから離れたくて仕方なかった。

全力疾走のまま、家に逃げ帰ってきて、うちの母親にその事を
早口で説明したんだけど、もう本当に半狂乱みたいになっちゃって
とりあえず落ち着け、と言われた。
で、ようやく冷静になった頃に、改めて説明した。
俺の様子が真剣だったから、母親もどうやら冗談の類では無いと思ったらしい。
事実かどうかは疑われたけど
俺としてはバッチリ見ちゃったから本当に洒落にならなかったんだ。


で、後になって「あれは山の神様の類なんじゃないだろうか」と思い始めて、
近所の爺ちゃん婆ちゃんにちょっと聞き込みしてみたんだよ。
でもその山も別に霊山じゃ無いし、特に奉ってる神様もいないらしい。
橋を作る際も、ちゃんとお祓いしてたし、工事も問題なく進んでたみたいだ。
町の資料館とかにも行ってみたんだが、
漁師町だから海に纏わる話とかは出てくるけど
山に関しての逸話は少なく、それらしいものも見当たらなかった。

俺が見たあの白トカゲは何だったんだろうか。
未だにわからない。 


【引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?part238】