小学生時代の話。

夏休み、両親自営業で共働きのため家に俺しかいない昼間のこと。
リビングでソファーに座って、いいとも観てたんだ。
冷房を入れるのは禁止されてたから窓とリビングの引き戸を開けてたわけだけど、
番組の途中でものすごく空気が重くなった。
重い空気の発生源っていうのかな…それは俺の真後ろ、廊下だった。
ソファーは両側開く引き戸の片側をふさぐ形で置かれてて、
その塞いだ引き戸を開けてたから俺の後ろはすぐ廊下って感じ。
急に鳥肌が立ってものすごく怖くなったけど、
留守番してないとばれたときの両親の剣幕のほうが当時の俺には怖かった。
何とか我慢しようとテレビの音量を上げて無理矢理笑ってたんだけど…
いきなり耳元で「あはは」って女の子の声がしたんだ。

泣きそうになってテレビもそのままに俺は家を飛び出し両親のいる職場に走った。
当然留守番を放棄して職場にいきなりやってきた俺をオカンは怒り、
すぐに帰れと怒鳴り散らす。
俺もこのときばかりはさっきの恐怖が勝り帰ることを拒む。

俺があまりに拒むものだからオヤジが一緒に来てくれることになって
ビビリながらも渋々家に帰った。
帰ると家は静かで、付けっぱなしだったはずのテレビが消えていて、
俺は泣きながらオヤジにそれを訴えた。
すると別の部屋から弟が出てきて、
(弟は遊びに行っていた。ウチは交代で留守番するルールがあった)
テレビを消したことを聞き、オヤジは呆れながら職場に戻っていった。
弟にさっきの話をしても信じずバカにするだけで、
俺も弟が帰ってきた安心感から普通の精神状態に戻っていった。


両親が帰宅してしばらくたった夜の9時ごろだっただろうか。
オカンから「コープいって牛乳買ってきて」と言われ、
俺は自転車で5分のところにあるコープに向かい、
当時売っていた2Lの牛乳を買い帰路についた。
コープから家までの間には結構長い直線の道があるんだが、
行きは明るかった道が帰りはやたらと暗い。
俺は昼のことを思い出し、ビビリながら自転車をこいでいた。
その時後ろからキィ、キィとペダルをこぐ音が聞こえてきた。
「人がいる」と安心してチラっと後ろを振り返ると、
中学生くらいの女の子が自転車でこちらに向かってくるところだった。
女の子は俺の横に並ぶとこちらを見てにっこり笑った。
全然知らない人だったけどビビリまくってた俺はホっとし、
軽く会釈を返してまた前を向いて自転車をこぎ始めた。

1分くらいして、なんだか変だと思った。
普通知らないやつの隣を同じ速度で並走するなんてことはない、
と気付いたからだ。
少し気味が悪くなった俺は速度を上げ、女の子を振り切ろうとした。
でも、振り切れない。
相変わらずのキィ、キィという音を出し、俺の隣に張り付いている。
さらに速度を上げる。が、離せない。
それどころか女の子はこぐペースも変わっていない。
それなのに横についている。
ずっとついてくる女の子をもう一度見た時、俺の首は動かなくなった。
足も止まらず自転車をこぎ続ける。
そして、先ほどにっこり笑いかけてきた女の子は

「あはは」

と昼間の声でニタリと笑い、自転車ごと消えた。
その瞬間首が動くようになり俺は直線の道の終わり、
交差点から左折してくる車に轢かれる寸前のところだった。
俺は咄嗟にハンドルを切り電柱に衝突。
右肘の肉がえぐれ骨が見える怪我をした。

家に帰るとオカンは俺の怪我より
使い物にならなくなった自転車と中身の漏れた牛乳の心配をし、
俺はオヤジに手当てをしてもらいつつ別のところに新しい傷を作られた。
それ以降あの女の子は見ていない。 


【引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?part280】