子供の頃、俺の家の隣には母子家庭の親子が住んでいた。

子供は俺と同い年の女の子で、とても可愛いい娘だった。
母親も美人で、とても優しい人だった。
お母さんの身体が弱かったのであまり裕福ではなかったけれど、
二人はとても仲が良くて、幸せそうな親子に見えた。
俺と女の子は、家が隣同士だったこともあって、凄く仲が良かった。
周りの友達から冷やかされたりもしたけれど、気にはならなかった。
俺はその子のことが好きだった。
子供心に、ずっとそんな平穏な日々が続いていくのだと思っていたけど、
それは突然終わりを告げた。
小学校4年の時に、その子の母親が再婚したことがきっかけだった。
再婚相手は暴力団風の男で、定職にも就いていないようだった。
昼間からブラブラしていて、おまけに酒癖が悪く、
夜中に大声を上げて暴れる音が、俺の家にまで聞こえてきた。
その子の母親が、顔を腫らしている姿を良く見かけるようになり、
女の子のほうも、手足に痣を作ることが絶えなくなった。
女の子の表情は日に日に暗くなって行き、
心配する俺に「あの男がいるから、なるべく遅くなるまで家に帰りたくない」と言った。
俺は少しでもその子の力になりたくて、
毎日、日が暮れるまで彼女に付き合って、外で一緒に遊んだ。

ある日の帰り道、彼女が「K君(俺の名前)、私のこと好き?」と聞いてきた。
俺は突然のことで驚きながらも、「うん、好きだ」と正直に答えた。
彼女は「じゃあもし私が何か困ってた時は助けに来てくれる?」と聞いた。
俺が「うん。絶対助けに行く」と言うと、彼女は嬉しそうな表情を見せて、
俺の両手を黙ってギュッと握った。

彼女たち一家が姿を消したのは、その2日後のことだった。
近所の人の噂では、あの男のした多額の借金のせいで夜逃げしたらしい、
ということだった。
俺は必死で彼女の行方を探そうとしたが、当時小学生だった俺の力では、
何の手がかりを掴むこともできなかった。


彼女からの手紙が届いたのは、それから1ヵ月後のことだった。

「K君お元気ですか?
母のお仕事を手伝ったりしていると
やけに時間がたつのが早く思えます。
くるしいこともあるけれど
たいせつな思い出をかてに、なんとか
すごしています。
ケガや病気をしないよう、けんこう
に気をつけてがんばってください。
きっといつの日か会えるのを楽しみにしています。
手紙また書きますね」

消印は大阪のもので、何処でどのような暮らしをしているかは書いていなかった。
また、彼女からの手紙も、その後2度と届くことはなかった。
俺はそれからも何とか彼女の居場所を突き止めようと試みたが、
それがうまくいくことはなく、次第に彼女のことも頭から薄れていった。

それから10年近くたった2日前のことだった。
部屋の整理をしていたら、彼女からの手紙が出てきたのだ。
懐かしさと、小さな胸の痛みを感じながら、何年か振りに手紙を読み返していると、
文面から妙な違和感を覚えた。そしてその正体に気が付いた時愕然とした。
小学生だった当時は気がつかなかったが、
各行の1文字目と2文字目が微妙に離れているのだ。
彼女の行方は、今もようとして知れない。 


【引用元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?part236】