おれはいま北海道に住んでいます。
知り合いに趣味で狩りをしている方がいまして
その方から聞いた山での不思議なおはなしをかきます。
少し地味です。

彼は趣味といえど狩歴20年のベテランで
主に道東(北海道の東のほう)をホームグランドに鹿狩りを行っており、
狩猟期間が解禁になると毎週のように山に分け入る生活をしています。
ある秋のに体験したおはなしになります。
早朝から山に入り慣れた森林に踏み入りました。
散弾銃と鉈と少しの食料と秋といえど北海道は寒いので防寒対策は怠らず、
2日前より風呂に入らない。
これは、げんかつぎと石鹸臭さは野生動物に臭いで感づかれないためらしい。
足跡などの痕跡を見逃さぬようそしてなるべく音をたてないよう
慎重かつ大胆に一時間に2km歩く速度で移動します。

痕跡はみつかるが古いものばかりでそうこうするうちに
昼近くになるころに足跡とは違う痕跡を見つけました。
獣臭がする。
間違いなくヒグマの臭いです。
やばい。
彼に言わせればヒグマは特に珍しいものではないのですが
秋口と春先のヒグマは冬眠前後は凶暴になる可能性が高いので困るらしい。

ほどなくして獣臭のもとを見つけました。
木の袂に土を掘った形跡がありキツネが中途半端に埋められていました。
木には爪を研いだあととヒグマの体毛と糞尿らしき形跡。
マーキングです。
これは警告です。
ここはおれさまのもので近づくことまかりならんということだそうです。

そしてまずいという理由がもうひとつありました。
彼はヒグマに対抗する手段をもっていません。
散弾銃は持っているが弾は四発だけです。
重くなるのを嫌い最小限の装備でさらに鹿用の散弾しか所持してません。
ヒグマのぶ厚い皮膚と筋肉を貫通し致命傷を負わせるには心もとない。
彼はあきらめて帰ることにしました。

ほどなく帰り道で正午をむかえました。
昼食のため彼は適当な場所をさがすと座れそうな倒木をみつけました。
ここで座って食事となりました。
リュックからパンと麦茶をとりだします。
もぐもぐごくりとやっていたところ突然あしもとに気配を感じました。
みると子ギツネが二匹靴にじゃれついていました。
どうやら倒木の根元に巣穴があるらしくそこから出てきたようだ。
まだ産まれてまもないのだろうか、ころころのもはもはである。

パンをひとつまみして子ギツネにあたえてみるとひと嗅ぎしてむさぼる。
サバ缶も開けてあたえてみるとなかなかの食いつきであった。
そのとき横目に映った。
しまった油断しすぎた。
約5m先のやぶからヒグマが現れた。
風下から接近されたので臭いで気づくことができなかった。
しかも成獣だ。

銃は手元にはない。
一足等の距離にあるが動けない。
いや、動いてはいけないのである。
急激な動作はヒグマを刺激する。
この距離で飛びかかってきたら銃を手にした時にはズタズタにされる。
それ以前に弾がこめられていない。
左胸ポケットに四発おさまっている。
まず目が離せない。
ヒグマもこちらに目を合わせいる。
子ギツネがキューと鳴く。
まずい(冷や汗)
そのときいきなり背後に気配を感じた。

なんだこの気配は?
今まで感じたことのない寒気がはしる。
背後を見たい衝動にかられたとき
「動かないで」
女性の声がした。
心臓がくちからとびだすかと思うぐらい驚いた。
そのときヒグマが立ち上がった。
体長2.5mはあろうか。
威嚇している。
鼻からブフーッと息をもらし興奮しているようだ。
背後の気配がいきりたつ。
周囲の気温がいっきに下がったように感じた。
ヒグマが四つ足をつき目を離した。
おびえている。

子ギツネがキューと鳴いた。
ヒグマは回れ右で再びやぶの中に消えていった。
しかし彼はまだ動けない。
背後の気配がまだ消えない。
「たのみます」
また女性の声がした。
同時に気配も消えました。
子ギツネが靴ひもにじゃれついている。
彼はその場にへたりこみました。

彼は混乱する頭をかかえそして空気的に二匹の子ギツネをかかえて下山。
帰りのクルマのなかで子ギツネが癒やします。
二匹は養うことに決めました。
そうしなければならないと感じたそうです。
そんな彼ですが定職はありません。
この事件のあとパチプロとして生計をたてています(現在も)
不思議とギャンブル運に恵まれるようになり、
バカ勝ちしないが1日の儲けは地味ながら五千円~一万円で
その事件以降はパチンコで負けたことはないそうです。
おれも二匹のキツネには会わせてもらいました。
同居して五年くらいになるそうです。
キツネなのにかなりデブちんで人なつっこいやつらでした。


【引用元:海にまつわる怖い話・不思議な話 12】